イナダ組・第26回公演 『ライナス』

2003年 07/26〜08/03 於:道新ホール



CAST

松永竜一/音尾琢真  松永竜一/江田由紀浩  松永春夫/大泉洋  
松永千明/小島達子  安西徹男/森崎博之  小坂淳子/庄本緑子
松永伸子/出口綾子  松永まなみ/山村素絵  ジュン/川井“J”竜輔
ハッチ/岩尾亮  ペコ/野村千穂  松永陽子/棚田佳奈子
ゴロ子/加藤和也  シュウ子/赤川修平






久しぶりのイナダ組観劇、凰原が見たのは30日の水曜日と千秋楽の2回。
会場に入ると舞台セットがぼんやりと照らし出されていました。
舞台の左半分はバーのセットが組まれ、右半分は応接セット。家庭の居間にも見えるし、バーのソファ席にも見えます。

開演前に携帯電話等の諸注意とグッズの宣伝があり、いよいよ舞台が始まりました。。。




 芝居は40歳半ばの松永竜一(音尾。以後、松永)と妻の伸子が舞台右側のソファに座っているところから始まりました。
娘のまなみが夜遅くまで連絡もなく遊び歩いていることを心配する松永と、さほど気にせず放任している伸子が対照的です。伸子は松永の母親がわりだった小坂のおばさんから電話が来ていたので『連絡して上げて下さい』と頼みますが、叔母を苦手としている松永は一切取り合いません。
そんな最中、新聞に載っていた夫の出身地・小中でのタイムカプセルの記事を見た伸子は夫に話しかけます。そしてそこから忘れていたはずの松永の少年時代が蘇ってきました。。。

 舞台左側のバーのセットでは松永の行きつけのオカマバー。
そこのママ・ジュンが松永の話を色々と聞き出し始めます。いい相談相手であるジュンは、松永の家庭のことや過去のことを少しずつ話し出すきっかけを与え、物語の方向を示唆するような役割のようです。

 5歳で両親が離婚し、10歳で母に死なれた松永竜一(江田。以後、竜一)は14歳。
現在大学生の姉・千明とは別々に暮らしており、母の妹である小坂のおばさんのもとに暮らしていましたが、夏休みのある日突然幼い頃に別れたままの父が、一緒に暮らしたいと申し出てきます。
そして真夏の東京・三鷹の駅前で待ち合わせをする場面。忙しない叔母とは対照的に物静かで本を読んでばかりいる寡黙な少年竜一。そこにこの話には反対であった姉・千明がやってきて、無理矢理竜一を連れて帰ろうとしていたところにやっと現れたのは一人の男。。。
恐る恐る話しかけてくる見知らぬ男は、安西徹男と名乗りました。そしてやや遅れて、父・松永春夫がバタバタと現れます。
白い大きな帽子に派手なブラウス、真っ白な膝丈のスカートを履いた女性の格好で。。。


 舞台は再び松永の居間。やっと戻ってきた娘・まなみから、別れた男の子供を妊娠したと聞かされ、思わずまなみを殴ってしまう松永。
『勝手にしろ!』と、息巻く夫と娘を気遣い夫に対しては諦め気味の伸子。
 そうしてまたジュンの店で酒を飲む松永。娘を殴ったことに対してジュンがやんわりと虐待とその連鎖の話をします。
そしてまた話は松永の父、春夫と再会したあの時に戻りました。

 日射病で倒れた小坂の叔母を春夫の店『チェリーボーイ』に運び込み、帰ろうと足掻く千明を何とか少しでも留めようと徹男(通称・てっちゃん)が説得します。一方竜一は何のリアクションもありません。
子供達に対面してどうして良いか解らない春夫は、困惑しながらも自分が妻・陽子と別れてオカマ・ハルちゃんになったこと。そして現在は徹男と夫婦であることを告げました。
父なのか母なのか解らないような格好や言葉遣いのハルに困惑気味の千明と、何を考えているのか解らない竜一。竜一はひたすら本の世界にしか興味がないようです。
 そのうちに店内に入り込んできた店の従業員・ハッチと、ハッチにぞっこんのお焦げ・ペコが混じって、店は宴会状態に。
叔母も混ざって、飲めや歌えの大宴会へと突入してしまいます。
飲み過ぎて泥酔し、最早帰ることなどままならない小坂の叔母。そしてハッチとペコのショーに徹男が混ざり、場内はまるでコンサートのように盛り上がります。
その馬鹿騒ぎに苦々しい思いで背を向ける千明に、ハッチや徹男が昔ハルがレコードを出していたことを告げると、少し興味を示した模様。渋々の様に見せかけて実は歌う気満々のハルは、A面の『しみったれた女』ではなくB面の『夢のはてまで』を甘く、もの悲しく歌い上げました。

 そんなバカ騒ぎの中、ハッチが昔の男の写真を見せびらかしていた事から小さな事件が起こります。全て焼いてしまって、たった一枚しか残っていないその写真を、竜一は取り上げて目の前でびりびりに引き裂いてしまいました。
舞台隅での松永がその時の心境を語ります。「何故だか幸せそうなその姿を羨ましく思った…」と。。。
 半狂乱になったハッチに対して謝りたくても謝れず、俯いて黙っているだけの竜一を、ついハルは殴ってしまいます。
そしてその事によって竜一はパニックを起こし、店の中のものを投げつけて暴れ、店を飛び出してしまいました。慌てて徹男が追いかけて何とか竜一を宥め、引き戻した事を松永が語ります。
 静かになった店内で、一人もの悲しく散らばったものを片付ける無言のハル。殴りたくて殴ったわけではない悲しさと、どう扱って良いか解らない戸惑いが、その静かな仕草で見事に表されていました。

 場面は変わってある暑い夏の日。竜一は押入の中で古ぼけたプランケットを被り、一人空想の世界に浸っています。その場所だけが彼の自由な世界であり、空想だけが唯一の彼の救い。どんなものにも、何にでもその世界では可能になる、押入の中。
そこへ母・陽子が仕事から戻ってきます。荒れた家の中に腹を立て、怒鳴り散らしながら押入の中にいる竜一を見つけて叱責します。
仕事と家庭に疲れ、苛々を募らせている母・陽子の様子を窺いつつ、何とか母の気に入るようにしようとする竜一がけなげでした。

 暗い店内には、眠ることが出来ずに起きだしてきたハルがグラスにジュースを注いで飲んでいます。そこにやはり眠れず起きてきた千明がやってきて長年の怒りをぶつけます。それに困惑しながらも受け止めようとするハル。
そして千明がいなくなったあと徹男がやってきて、子供を呼び寄せることを無理に進めた事を詫びた後、ハルに気になることを告げました。着替えの時に見た竜一の背中の傷のことを。


 場面は昔の夏に変わり、陽子が怒鳴り散らしていました。苛立ちと疲労の限界からか何もかもに疲れ果て、ひとり窓に佇んだまま、消えていきます。。。

 松永の居間ではまなみと松永が諍っていました。まなみは一人で子供を産み、育てていくことを決意していたのですが、松永にはその気持ちが解らない。
『親が子供のために生きる』事など信じられない。ただ、その事しか松永の中にはありました。

 場面変わって夜が明けた「チェリーボーイ」店内。起きだしてきたハルや小坂の叔母、そしてペコ。そんな中、徹男と竜一の姿が見当たらないことに気付き、全員が手分けして竜一を探しに外へ出ていきました。ハルを一人残して。
 不安に苛まれるハルのもとに、ふらりと戻ってきた徹男。竜一がいないことを告げ、今までの鬱憤を徹男に向けます。家族のもとに戻っていた徹男を。
そして終わりかけの自分たちの関係を。
もう若くない二人は、徹男は家族のもとへ、ハルは子供達と暮らすと言うことで関係を清算しようとしていたのでした。
ハルは一人が寂しくて子供達を呼び寄せようとしたが、徹男さえいてくれればあの子たちと暮らさなくても別にかまわない、それでなくてもこの一日だけで心労で老けてしまうといったようなことを赤裸々にぶつけ、一人にしないでよと泣き叫びます。
そんなハルをなんとか宥めようとカウンターの中に水を取りに行った徹男の視界に竜一が入りました。そしてのっそりとカウンターの中から出てきた竜一の姿にハルは愕然とします。
全ての話をカウンターの中でブランケットを被って聞いていたであろう竜一。彼はほんの少しだけ持っていた希望が、ハルの言葉によってうち砕かれてしまっていました。『寂しいから、一人になりたくないから僕たちを呼んだだけだろう!』と。
竜一が投げ出したブランケットを床から拾い上げて、ハルはふとそのブランケットに気付いたようでした。

 そしてジュンのバー。ジュンはオカマの恋を語ります。深くて重くて嫉妬深い、オカマの必死な心。寂しくて、だからこそやめられないオカマの恋を。

 千明と小坂の叔母は竜一を連れて帰ることにし、店内で電車の時刻を待っていました。ハルはショックを受けたまま部屋に引きこもったままです。
徹男が何とか引き留めようとしますが、千明は全く聞く耳を持たず竜一は押し黙ったままでした。
ハッチ達に出てくるよう促されやっと出てきたハルは、竜一のブランケットを丁寧に畳んで竜一の目の前に渡します。
どうにも居たたまれない彼等親子を強引にソファに座らせた徹男は、少しでも話をさせようとします。千明が頑なに拒否を続ける中、竜一は立ち上がって泣き叫びました。『みんな勝手だ、大嫌いだ…』と。
『ハルも千明も、陽子も、誰も皆自分を見てくれようとはしなかった。自分たちだけが大事だった。母や姉と暮らしていた時も、自分はいつも一人だった』と泣き叫び、パニックを起こして暴れ出しました。
そして自分の鞄にしまい込んでいたブランケットを必死で引っぱり出すとその匂いを嗅ぎ、抱き締めて震えていました。
その様子に千明は思い詰めた様子で必死にこの場所から逃げ出そうとしますが、それを徹男が止めます。そしてゆっくり、『竜一くんはもしかしたらお母さんから折檻をうけていたんじゃないのかい?』と尋ねました。
その言葉に過剰に反応して否定する千明。徹男は尚も続けます。『千明ちゃんは知っていたけど何も出来なかったんだね?』と。
大きなショックを受け、それには触れまいと逃げ腰になるハルに対し徹男は『逃げちゃ駄目だよハルちゃん!』と必死で語りかけます。

 竜一は震えながら静かに語りだしました。
春夫が居なくなってから、母・陽子が自分を嫌っていたこと。どんなに好きになって貰おうとしても駄目だったこと。だから母の嫌な部分を見ないように、忘れるようにしていたことを。
そうして、今では良かったところ、楽しかったことまでもどんどん忘れてしまい、母の顔すら思い出せなくなってしまったのだと泣きました。
そんな竜一に一人の父親・春夫に戻ったハルが茫然としながら近付きました。
『……陽子が…………お前を………!?』
『そのブランケット…パパが出て行くまで使っていたやつだね?』
そう呟きながら、竜一を強く抱き締め、頭を撫で続けていました。。。

 そしてその様子を思い出した松永は、今まで自分の中に封印されてうるおぼえでしかなかった母の記憶と共に、虐待の記憶をも思い出したのでした。


 夜明け。ジュンのバーで飲み明かした二人が清々しい表情になっています。
松永は自宅の居間で、妻に娘のこれからのことを前向きに考えていく素振りを見せ、伸子は驚きつつも喜んでいる様子。再び小坂の叔母に連絡をしてくれと頼むと、『用件は解っている…』と、松永は答えました。
そして一人になった松永は、そっと自分の携帯を取り出して恐る恐る電話をかけ始めました。
 暗闇にぽっかりと浮かぶバーのピンク電話。暫く呼び出し音が鳴り響いたあと、奥の扉が静かに開いてひっそりと老婦人が出てきました。
そっと受話器を取り、『…もしもし』と電話に出ます。
『もしもし…俺……。元気?………』の言葉に、ほんのりと微笑むハル。
そして暗転。

真っ暗な舞台には、二人の松永竜一が立っていました。。。




今回のライナス。とてもしっとりとしていて、静かなお芝居でした。
途中、ハッチ・ペコ&てっちゃんのド派手な歌なんかもありましたし、笑いも満載(特に小坂のおばさん)で、とてもバランス良く楽しめる舞台だったと思います。



それにしてもこの舞台、キーマンであるハルちゃんがまぁ〜色っぽい(汗)
どうしようってくらい、ドキドキさせていただきました。多分それは洋ちゃんの仕草が物凄く綺麗なせいであったろうと思います。個人的にね
オカマちゃんの大ぶりな動きではなくて、中年女性特有の優雅でしなやかな物腰なんですな。でもって手足が長くてすーっとしているから余計に仕草が協調されるのかな。。。
スカートからすらりと出た脚があまりに綺麗で、目を奪われっぱなしでした。
『夢のはてまで』を歌う直前、マイクを持って『ああ、あーあー…』と発声練習をしつつ振り付けをしている様は和田アキ子そのものでしたが(^_-)


松永の琢ちゃんは、どうしてあんなに芸達者なんでしょうね?
どこからどう見ても40半ばのお父さんになっちゃってました。。。(汗) 彼の演技力、そして何とも素晴らしい声。うっとりものでした。
でも酔ってジュンちゃんの前ではおネエ言葉で『ジュンちゃんお代わりちょ〜だ〜ぁいは、何というかめちゃめちゃ可愛いでやんの。。。


江田君の竜一は。。。本当に中学生に見えました(汗)やはり色白で小さいというのが功を奏したか!?
幼さと妙な意固地さ、そしてどこか守って上げたくなるような竜一でした。
江田君は、個人的にWARのブライアンが凄く好きなんですが、また更に役者として一皮むけたような感じかなー。
ブランケットを抱き締めて震えている様は、鬼気迫るというか、あの小さい身体のどこにあんな迫力があるんだろう?と、驚かされました。
でもって、どうでもいいけどこの江田君の部分がアップしたら思いっきり消えちゃっていたよ(激汗)大チョンボしてました。。。


ジュン。。。まんま純子だったですな(笑)ただし今回はショートヘアの茶髪をびしっとまとめて、水商売系のお姉ちゃんの雰囲気バリバリ。
途中、松永の話を聞かないで焼酎の鬱金茶割りを飲んで『不味ぅーーーッッ!!』って叫ぶシーン、大好きです。
松永に一生懸命ラブコールしては呆気なくかわされてしまう、おちゃらけのシーンも最高でした。


てっちゃんは、終始穏やかで大人でしたね。一部の例外を除いて(笑)
真っ赤なスーツにグラサンでド派手に御登場し、ジャイアンっぷりを如何無く発揮されたモリ、最高に格好良いってば!!
楽日に見たときは掛けていたグラサンを途中で外してハルに格好良く投げ渡すと、ハルがそれを掛けちゃって。。。まるでオカマの大門が後ろにおられたようですわ(笑)
そして、新しい発見もありました。ハルの言葉ですが、『てっちゃんはね、頭が大きいんじゃないの。頭の下が細いの!!』だそうです。
いや〜知りませんでした〜。。。(笑)


あとは小坂のおばさんの壊れっぷりや、ハッチのまんまオカマちゃんな演技、田中邦江激似のモノマネがナイスなゴロ子、パワフルお焦げのペコ、上げたらキリがないのでこの辺にしておきますが、とにかく見所満載でした。
陽子の自殺をほのめかすような棚田さんの押さえた演技も非常に怖くて、素晴らしかったですしね。
個人的に庄本さんの小坂のおばさん、大好きです〜vvv 上手過ぎだよ、おばちゃんの習性(笑)




そんなわけで、凰原の主観バリバリレポートはこれにて終わりです。
こんなクソ長い文章を読んで下さった方、大感謝。

ライナスを見た方がこれを読んで色んな場面を思い出して下さると嬉しかったりします。

そして、残念ながら見られなかった方がこんなタコ的レポートでも、少しでも雰囲気を味わっていただければ、もっと嬉しいな〜などと思っております。

それではあしからず。




   
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