TEAM-NACS 第10回公演

『LOOSER 〜失い続けてしまうアルバム』

2004年 3/4〜3/15  於:サッポロファクトリーホール

観劇日:3/10・14・15





今回の演目は札幌だけでなく、地方公演としての東京公演も視野に入っているため、いつものNACSのお芝居からは少々進化した形を取っておられました
基本的に実名=役名と言ったいつものスタイルを極力減らし、その方式に当てはまるのは主人公の佐藤重幸と友人の音尾くらいであること。
そして衣装にしてもそう。実名で演ずる彼らはいつも芝居のどこかしらで白シャツに黒いパンツという出で立ちでしたが、今回は一切無し。
五人とも皆、黒地のVネックシャツにやはり黒地のパンツ。(琢ちゃんのみ前ボタンの詰め襟っぽい雰囲気のもの)
ぱっと見れば一見普通の格好ですが、このシンプルな衣装の上に羽織と袴を重ねただけで、丁髷すら無いのにあっと言う間に、幕末に生きた新選組や長州藩の志士に変わってしまう。
その変身の面白さがありました。
しかもこの羽織、リバーシブルになっておりまして表は赤地に黒のだんだら模様の新選組隊士。裏はグレーや茶色などの地味な色合いになっており、長州藩士となります。
刀を持ち、舞台狭しと飛び跳ね駆け回る彼らの新選組は生き生きとしていて、観客の心を惹き付けるには充分で御座いました。

<あらすじ>
 主人公の佐藤重幸(シゲ)30歳は、フリーター。彼女はいるがイマイチ生活に張りが無く、だらだらと無気力に過ごしている。
そんなある日、友人の音尾に大河ドラマのスタント・インのバイトに誘われ新選組の撮影に関わった帰り道、汚い格好をした不思議な男(大泉洋)から謎の薬を買ってしまう。
『白き薬は一包みで十の時を戻り、黒き薬は十の時を越える。今宵一夜のうたかたの夢にて、どうぞお戯れ下さい…』
そんな謎の言葉に乗り、シゲは十五包みを一気に飲む。
そして150年の時を越えたシゲは新選組の壬生屯所前に立っていた。
 屯所内では暇を持て余す近藤勇(森崎博之)土方歳三(大泉洋)沖田総司(音尾琢真)がゆる〜く遊んでいた。
この世界ではシゲは赤い隊服ではなく古い方の浅黄の隊服を着た山南敬助であった。三人からはあだ名で『サンナン』と呼ばれているようだ。
仕方がなく日本史の虎の巻を見ながら山南のふりをするシゲの前に、また一人現れたのは局長の芹沢鴨(安田顕)。右手に大鉄扇を持ち、左手には深紅(ふかべに)の梅の枝を持って登場した後、一暴れする芹沢だったが、彼の傍若無人な振る舞いによって肥後の守・松平容保(森崎)公より処刑の命が下される。
既に梅毒による病で身体がボロボロの芹沢。処刑を察すると、新選組を近藤や土方に託し、病ではなく武士として果てる事を望み、土方に介錯を託してこの世を去った…。

 現代に戻ってきたシゲ。
相変わらず何をするにも中途半端でやる気が起こらない。生きているのか死んでいるのかすら解らないような日々の生活の中で、もっと自分の人生には何かが起こる筈だと漠然と考えていたが何もないことに絶望すら感じていた。
そして何かを探すため、何かを変えるために、彼は再び「白き薬」を手にするのだった。
 再び舞い戻った幕末時代。今度は新選組の屯所ではなく、なんと長州屋敷の前。
仕方がなく中へと入るとここもまた同じくゆるい集団。
若き討幕派尊皇攘夷志士の古高俊太郎(安田)・志士の中心人物である桂小五郎(音尾)・肥後勤王党の総帥であり軍学師範の宮部鼎蔵(森崎)が遊んでいた。
そして訳の解らないままのシゲの名は吉田稔麿
どんな人物だったか理解する間もなく、『坂本様』と呼ばれる坂本龍馬の策「京都御所に火を放って天皇を略取し、長州に連れて行く計画」にずるずると巻き込まれていく。
そしてこの計画を裏で動かしていた坂本龍馬こそ、誰あろう土方歳三であった。
土方は隊の名を上げるため、死んでいった芹沢の思いを世に繋ぐために裏で坂本に身をやつして奔走し、新撰組の功績を上げるために桂の首を狙っていたのだった。
 吉田稔麿として志士の中に居ながらも、時には山南となるシゲは、どちらの言い分も間違ってはおらず、ただ皆が国のために命を賭して行動していることを徐々に悟り始める。
 山南として近藤と共に長州屋敷に入り込んだシゲは、そこで古高と共に桂を逃し古高に自分が稔麿であることをあかすが、新選組側の間者と思われてしまう。
屯所で囚われの身となり拷問を受け続ける古高の元に、坂本龍馬としてそっと土方が忍び寄った。
泣き崩れながら坂本に全てを託そうとする古高を、土方は冷徹に斬り殺し、自ら刃を立てて自害したことにするが、シゲに見破られてしまう。
『どっちも間違ってないのに! ……何で殺し合うッ!?』
古高の躯の傍でシゲの悲痛な叫びが響いていた。

 古高により池田屋に志士達が集っていることを知った土方は、近藤・沖田・永倉(安田)・藤堂(大泉)を差し向ける。
大立ち回りの中で、宮部鼎蔵は沖田と立ち合った後、自害。
そして桂と近藤の対決。圧倒的に脇差しだけの桂が優位であったその時、坂本龍馬がその場に現れる。
桂の目の前で黒の羽織を脱ぎ、裏返したそれは紛れもない赤のだんだら
驚く桂に土方は『坂本龍馬は実体のない幻想』なのだと告げ、桂に斬りつける。腕を負傷した桂がこの場で潔く果てることを望んでいたその時。
桂が藩邸に逃れなければならない事を虎の巻を見て知ったシゲが、駆けつけた。そして桂に逃げるように説得するが、桂は頑なに逃げることを拒む。
以前自分を逃がすために散った若い命に『もう逃げはしない』と誓ったのだと語って…。
だがそれこそが古高の思いと反することなのだと、シゲは必死で説得し続ける。桂が此処で死んで良い人間ではないのだと言うこと。このあと薩長同盟を成し遂げ、150年後には誰もがその名を知っている人物になることを。
そんなシゲの様子を見て、土方は山南が寝返ったのだと憤った。『士道不覚悟!』と叫び、シゲに切腹を求める。
 土方は山南に対して語った。
『…あの時に戻りたくない』と。自分の人生にはただ何もなく、薬を売り歩くだけのおのが身を嘆くだけだった頃のことを。
そして、全ては新選組の名を上げ、死した芹沢の意志を継ぐこと。それが大義だと。
だがシゲは叫ぶ。
『はっきり言って個人の大義なんて、どうでもいいッ!!』
亡き芹沢への大義の為と言い、個人の思いを大義にすり替えている土方が間違っているのだと、思いの丈ををぶつけた。

 桂を逃したシゲに対し、土方は迷うことなく刀を抜き…斬りけた。だが尚も土方に取り縋るシゲ。
やがて崩れ落ち、シゲは息絶える。
『吉田稔麿も…歴史には……残らない………』
そう、言い残して。


 現代。同じようにスタント・インのバイトに取り組んでいる音尾とシゲ。
以前と比べて随分と前向きになり、これからの人生をしっかり歩いていこうとするシゲの姿に、音尾は『お前…変わったね』と話しかけた。それに対してシゲは『なんせ一回死んでるからな、俺』と笑う。
やがてシゲは夢の続きを語り始めた。うたかたの夢の最後を。
 シゲは市村鉄之介として、土方と共に船に乗り込んでいた。
向かう場所は箱舘。新選組として最後の戦いに赴く土方に付き添う鉄之介に対し、土方は『この戦…勝てぬ』と静かに言い、箱舘に着いたら再び船に乗って戻るように命じた。
鉄之介に自分の遺品を託して。
そして穏やかな口調で語る。
『今なら解る。個人の大義など、どうでもいいということが』と。
歴史に残る事柄が全て坂本龍馬の手柄となっていても、本当は歴史には刻まれることのない、名も無き人物達の功績だと言うことを。
その言葉に対し、シゲは小さく『有り難う御座います…』と呟き、はにかんで笑う。
 また、土方はこうも語った。
『昔、150年後を語った隊士が居た。薩長同盟は、彼の功績だ…』と。

彼の手の中には「黒き薬」がそっと握られているのだった……。

この後、シゲの口から土方の死が語られ、ラストは在りし日の隊士達の声が何処からともなく聞こえてくる。
楽しそうな、生き生きとした新撰組の声が―――――。






  



こんな感じの舞台でした。色々端折っても。。。長いですね〜(笑)
上演時間は大体2時間15分から2時間半ほど。千秋楽などは2時間40分近かったかな?
あらすじだけを書き出すと、もの悲しい物語ではありますが、実は全編笑いが満載。腹を抱えて笑って、所々で泣ける感じでしたね。
前半の芹沢先生など、登場の仕方と格好に死ぬほど笑いました。
ですがその後、愛妾・お梅の死に際の様子を安顕が一人芝居でやってのけるのですが。。。こちらには思いっきり泣かされました。凄いです、顕ちゃん。
そして芹沢の処刑シーン。
自分とお梅の亡骸を水戸の梅の名所・偕楽園に埋めて欲しいと総司に頼み、武士として処刑されることを望んだ芹沢。梅毒を
『俺が愛した梅の花が身体に咲いてくれる病』と言い放っていた彼が、『梅の毒が頭に上らないうちにやってくれ!』と土方に頼み、壮絶な最後を遂げる場面です。
そしてまた介錯をする土方役の洋ちゃんが切なくて良いんだ。
安顕と言えば外せないのが古高の俊太郎。若々しくて、倒幕の目的に向かって一生懸命な感じ。坂本龍馬に対する尊敬の念がびしびし伝わってきます。それだけに、竜馬である土方に斬られた瞬間の絶望感と言ったら素晴らしかったですね〜。
琢ちゃんの総司は、可愛かったなあ。文献通りのヒラメ顔なだけあって、もうかなりの勢いでぴったり(笑)
可愛くて、でも人斬りの雰囲気も出てて、しかももの凄く身軽。たまらないものがありました
対照的に桂はどっしりと重たく、落ち着いた雰囲気が溢れてました。
でも変装の名人だけあって、桂の
『サカナ』の擬態は流石です!!
モリの近藤勇はのっけから凄かった(笑) 自分の拳骨を口に入れてのスタンバイは辛かったでしょうなあ。。。
殿様遊び(王様ゲーム)をやっている時のモリが楽しそうでした。なんせ毎回自分は殿様だから関係ないし。洋ちゃんと琢ちゃんにあの手この手で毎度毎度接吻をさせては楽しんでいらっしゃってまあ☆
そしてそれを意地悪〜くにやけて見ているシゲも楽しそうでしたが。
そう言えばモリ、松平容保公もやってらっしゃいましたが、なかなかコワイ雰囲気で良かったなあ。緑のライトが気持ち悪かったのもあるけど(笑)
洋ちゃんの土方。前半はかなりゆるくて、大丈夫か?このヒト。。。と思わせるような駄目っぷりを出していましたが、それが見せかけで本当は強くて怖い雰囲気でしたね。表情がびしーっと変わるのが、いい。
更に羽織を裏返して着ると、その場で坂本龍馬の顔になるのも凄かったなあ。
でもワタクシの中の一番は、ずぶの素人である山南と
『どっちが弱いか対決』をしちゃったところでしょうか(笑)
お互いにへっぴり腰で刀を構えるは、斬り合うどころか間違って自分を傷付けちゃうあの二人の馬鹿馬鹿しさが。。。何とも言えず大好きです

シゲは。。。やはり切ない役・葛藤する役がお似合いです。ええもうたまりません!
自分自身に対しても興味が薄く、だからこそ国の歴史も何も彼もが興味がなかった彼。
幕末の彼ら。高々二十歳から三十歳くらいの若い人間が必死になって倒幕だ、佐幕だと真剣に国を憂いている男達の姿に憧れと疑問の両方を持って、葛藤し続ける。
時に
山南敬助であり、時に吉田稔麿。どちらも目立って有名ではないけど、歴史の土台を支えた人間だったりするわけで。。。そんな彼らに何かを見出して、少し成長したラストのシゲの顔は清々しくて、素敵で御座いました。
因みに土方に斬り殺されたときの切ない表情と、崩れ落ちて絶命したときの表情は。。。かなり絶品でした(涎)

この芝居。東京向けのせいもあるのでしょうが、時折出てくる時代背景の解説をするキャラクターが
『水曜どうでしょう』校長だったり、生徒の安田だったり(笑)
そんな彼らが出てきただけで場内は大爆笑に包まれるわけです。
内地藩士の方々もあれは嬉しいんじゃないかな〜。



そんなわけで、長いレポになりましたがこの辺りで失礼いたします。

今後の東京公演、何処まで熟成されるのかが気になるところですね。。。






  




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