劇団イナダ組・第29回公演
『カメヤ演芸場物語』

2004年 11/18 〜 11/23  於:道新ホール



< 出 演 >

秋田徹郎(秋ピンチ)/音尾琢真  夏目信治(夏チャンス)/飯野智行  ロマン師匠(ロマンカレン)/大泉洋

カレン(ロマンカレン)/棚田佳奈子  石崎(トリオ・ザ・ハイセンス)/岩尾亮  チー子(トリオ・ザ・ハイセンス)/小島達子

クニ(トリオ・ザ・ハイセンス)/江田由紀浩  佐竹支配人/森崎博之  御所河原みつ子/山村素絵  出船亭金朝師匠/川井“J”竜輔

陳軒楼の名物おばちゃん/野村千恵  夏目順子/和田和美  刑事/佐藤ケイ太  照明のヒデさん・警官/加藤和也






今回の観劇は22日の夜公演と楽日23日の昼公演の二回。開演時間直前になると上手から前説の人間が出てきて、携帯の電源やアンケートなどの諸注意を述べてから座布団を取り出し、ステージ端にぽんと置きまして、いよいよお芝居が始まります。



上手側の座席横非常口が主な出入り口になっており、階段を数段登ると上手ステージになります。まずは金朝師匠(川井J竜輔)がひょいひょいと出てきて、座布団の上に座り、今から33年前の昭和46年、1971年という時代を語り始めるところからこの物語が始まります。
学生運動がやや下火になりつつあった世相での、浅草の小さな演芸場でのお話です。


 舞台には中央に薄汚れた小さなテーブルとイス。正面には事務用の机と出入り口。上手側にはロッカーや小さなソファが置かれた壁。そして壁の向こう側には路地があり食堂や下宿屋が並んでいます。下手側にはステージへ続く階段と、更衣室。そして小上がりの化粧前。全体的に薄汚れた雰囲気の小さな楽屋です。
 父親から演芸場を受け継いだばかりで右も左も分からない新米支配人の佐竹(森崎博之)と、ナゾのおばちゃん(野村千恵)が盛り上がっているところに、金朝師匠が曜日を間違えたフリをして講座に上がろうとやってきて、人の良い支配人がまんまとそれに騙されたり。
それを知っていて支配人に一応忠告するも、お調子だけは良くて金朝師匠にも愛想を振りまく進行の夏目(飯野智行)がいたり。てっきり芸人だと思っていたおばちゃんが中華料理屋の名物おばちゃんだったり。それを知っていて教えない事務員の御所河原さん(山村素絵)だったり。
 と、そんなまったりとした楽屋に慌ただしくバタバタと逃げ込んできた男。派手なナリをしたいかにも芸人といった風情の男は夫婦漫才『ロマンカレン』のロマン(大泉洋)。大慌てで隠れる場所を探して、結局はロッカーの中へ。少し間をおいてからバタバタと追ってきたのはロマンの相方で嫁のカレン(棚田佳奈子)。大事な舞台用の大島紬をロマンが質に入れてしまったのに気付き、怒り狂っての御登場でした。結局はロマンを引きずり出して金と質札を取り上げ、さっさと帰ってしまう始末。残されたロマンは一人で漫才をする羽目になってしまいます。
 そんな騒ぎの後、夏目のところに誰かが訪ねてきました。
一人は妹の順子(和田和子)。順子が活動から足を洗ってしまった夏目に憤りを感じている中、新に順子達の活動の同志となった秋田徹郎(音尾琢真)を紹介します。それが秋田と夏目の出会いでした。
 その頃、楽屋には出番が終わった後のトリオ・ザ・ハイセンス達が戻ってきます。クニ(江田由紀浩)とチー子(小島達子)、そして問題児の石崎(岩尾亮)は早速楽屋で反省会を始めますが、石崎だけきちんと楽屋の人間に挨拶をしないことにロマンが怒りだしました。石崎は芸も磨かないで酒ばかり飲んでいるロマンを小馬鹿にして楽屋から出ていきました。

 夜、酔っぱらってフラフラになったロマンは楽屋裏で怪我をした男を拾ってしまいます。血塗れの男が逃げようとするのですが、妙な勢いで強引に楽屋に連れ込み、酔っぱらいながら手当をしている(つもり)のところに、風呂に行っていた夏目が戻ってきます。ロマンと一緒にいる怪我人は順子が先日連れてきていた秋田でした。公安の一斉捜査から命からがら逃げ出したようです。
迷惑をかけないようにと出ていこうとする秋田を、夏目は引き止めました。まだ公安の連中が彷徨いているから、明日の朝にでもそっと出ていけばいいと。
 で、三人で酒盛りをしてしまい、結局全員飲みつぶれてしまいます。
昼頃になってようやく目を覚ました夏目。そして朝方には出て行く筈だった秋田も何故かソファで高いびき。人の気配に気付いて慌てて秋田をロッカーに隠してやり過ごそうとするのですが、やはり明け方に帰ったはずのロマンが化粧前で寝ていて、うっかり秋田のことをばらしそうになったりして、夏目は大慌てです。
結局何やら隠し事に気付いた石崎がロッカーを開けた途端。。。青いライトに照らされた秋田がぼーっと佇んでいました。
サカナだ! …サカナがいた……』とびびる石崎。そしてそーっと出てくる秋田。
夏目の咄嗟の機転で秋田は自分と漫才のコンビを組んだ事になり、秋田も自らのでまかせでロマンに弟子入りしたことになり、コンビ名もその場で決まってしまうことに。
その名も秋ピンチと夏チャンスの『ピンチチャンス』。何となくの流れでロマンは師匠となったのでした(笑)

 手配中にもかかわらず、新人芸人として動き始めた秋田。当初は安保だの逃走だの農民一揆だのと、運動色に溢れたのネタだったのですが、いつしか芸人としての笑いを覚え、充実した毎日を送るようになります。
そんな中、ロマンの連れ合いカレンが体調を崩してしまいました。ロマンは酒を控え、懸命に看病を続けますが状況はあまり芳しくないようです。
また、ハイセンスの中でもいざこざが起こり始めます。元々笑いに対しての姿勢に真剣味が足りなかったクニ。そしてそんなクニに憤りを覚えている石崎がぶつかり、クニは漫才の最中にステージを下りてしまいます。自分は漫才に命をかけているんだとクニを責める石崎と、そんな石崎をなじるチー子。そしてクニは言ってはいけない言葉を口にしました。
『たかが漫才だろ!?』と。。。
その言葉に、いつもは頼り無い支配人の佐竹が口を開きます。自分は芸のことは解らないが、小さい頃からこの浅草で生きてきて、色んな芸人さんを見ていること。チー子も石崎も集団就職で都会に出てきた人間であること。
皆、貧乏な家に生まれ必死で這い上がろうとしている。ロマンも小学校すらろくに通っていない。貧乏な人間がなれる職業なんて職人さんか芸人さんくらいであること。親方に弟子入りして職人として一人前になるには何十年とかかってしまうから、それよりは何とかじぶんの芸で食べていけるように、一人前になれるようにと…彼らは芸に命をかけて一生懸命やっているのだということを。

 夜。夏目が出掛けている中、ふらりと楽屋に現れたロマンは秋田相手に久し振りに口にする酒を美味そうに飲み始めました。
 なんとなくの話の流れで『人間なんてそう簡単に死にませんよ』と生真面目に言う秋田に、ロマンは笑いながら『そうだといいんだがなあ…』とぽつりと言いました。
その後暫くして、ロマンはふとこんな言葉を口にします。
『客の拍手が、笑いの渦が…まだ聞こえる。まだ、鳴りやまぬ……だ。』
『本当にいい芸をしたとき、客の笑い声でこの小屋がうねるのよ…。』師匠は懐かしそうに笑いながら、そう秋田に言いました。
 そんな時、石崎が忘れた荷物を取りにやってきます。ギターケースを抱えた石崎にロマンは酒の肴に一曲やれとリクエストし、石崎が歌いだします。昔は一人で弾き語りの漫談をしていたのだと秋田に語るロマン。柔らかくてもの悲しいメロディでした。
 その頃夏目は順子に会いに行っていました。なんとか秋田を組織に取り戻そうとする順子を説得しに行っていたのでした。そんな二人のやり取りの背後では石崎のメロディが流れていました。

 結局石崎はカメヤを出ていき、残されたチー子とクニ。クニは何をするのでもなく楽屋に通い、チー子は行方しれずに。
また、順子も秋田の前には現れず、ピンチチャンスはめきめきと芸に磨きをかけ、人気もそこそこのようです。
 そんな折り、カレンが御所河原に支えられて楽屋にやってきます。チー子を探し出して連れてきて、何やら託すものがあるようでした。後から付いてきたロマンは何が何だか分からないまま、持ってくるよう頼まれた舞台衣装の入った風呂敷をカレンに渡しました。
そしてカレンは静かに語りだしました。自分はもう芸が出来ないから、後をチー子に託すと。
驚き、拒否するチー子。そしてもっとびっくりするロマン。当然ながら激昂します。ロマンカレンはカレンとだからやっていけた夫婦漫才で、今更他の誰とも組むつもりなど無いと。
 そんな二人にカレンは自分の精一杯の気持ちを何とか必死で伝えようとします。
薬のせいで頭が回らなくなり、もはや漫才どころではないこと。自分の大切なぼんくら亭主が、自分の病気のせいで舞台に上がらなくなってしまったのがとても辛いこと。芸しか取り柄のない亭主を何とか舞台に戻して、好きな漫才をさせてやりたい。そして何より、自分の生きた証としてロマンカレンを残したいこと。カレンがこの世から消えてしまうのは酷く辛いことに他ならない…だからカレンの名を継いで残していって欲しい事を。
 そこに居合わせた秋田がチー子に引き受けることを強く勧めます。そしてカレンにも『決して諦めないで!』と、精一杯の思いをぶつけます。
カレンは諦めているわけではないことを語りました。ただ、自分がいま出来るうちに全てをやってしまいたいのだと。
 チー子はカレンの思いを受け止め、その名を継ぐことを決心します。そしてロマンも同じく。そうと決まればカレンがまだしっかりしているうちにと、稽古をつけることになりました。

 が、ここで不安な出来事が発覚します。
漫才師としての頭角を現してきた秋田に対して嫉妬をしたクニが、警察に通報をしてしまっていたのでした。『怪しい奴がカメヤにいるらしい…』と。クニは秋田の正体を知っている御所河原と夏目の会話をたまたま聞いてしまい、秋田が手配中であることを知ってしまっていたのでした。
取り敢えず名前をはっきり告げたわけではない曖昧な情報であり、そうそうすぐに来るわけでもないだろうとのことから、彼らは新生ロマンカレンの襲名披露に向けて動き出すのでした。

 時は流れていよいよ襲名披露の日。大事なこの日の前座は売り出し中のピンチチャンス。客は早い時間から並び、新・ロマンカレンを待ちわびています。
この目出度い日に秋田が捕まっては困るとのことから、今はカメヤの進行となったクニが外を見張り、支配人・陳軒楼のおばちゃん・金朝師匠がトリオを組んで、いざとなったら秋田を逃がす算段などもバッチリです。
 本日の主役の一人、チー子は緊張でトイレに駆け込み大騒ぎ。それを諫めるロマンすらも緊張のあまり煙草を逆さにくわえる始末。ピンチチャンスは楽屋の隅でネタ合わせに余念がありません。
 そんな中、カレンが支えられて楽屋にきました。病気が悪化しているものの、折角の晴れの舞台を見たいとのたっての希望でやって来たのでした。
流石に客席に出ることは出来ず、彼らの芸を楽屋のモニターで聞こうと小上がりに座りました。
 やがてチー子の仕度が出来上がりました。華やかな舞台用の着物を纏い、カレンにその姿を見せてはにかみながら笑いました。
そして中央のテーブル前に座ったロマンが紫煙を燻らせながらいつもの口癖を呟いた後、カレンに語りかけます。
『覚えてるかぁ? カレン…』そう言ってぽつりぽつりとロマンは昔のことを語りだしました。
末広亭での初舞台。くすりとも笑わなかった客。その頃から気が強くて、責任がロマンにあるとくってかかってきたカレン。そし大喧嘩。演った内容は覚えていなくても、その喧嘩だけははっきりと覚えていると。
そしてその夜、ロマンの元に謝りに来たカレンが朝帰りになり、結局そのまま一緒に暮らし始めてあっと言う間に22年が経ったことを。
そんな昔話に、カレンはただ穏やかに微笑むだけです。

 そんな中、客席から楽屋に飛び込んできた二人の人物。公安の刑事(佐藤ケイ太)と、警官(加藤和也)が秋田を逮捕しに来たのでした。
ですがここはカメヤの楽屋。一筋縄ではいかない連中揃いです。あっと言う間に刑事達は逆に取り押さえられ、今日の襲名披露がどれだけ大事な日であるかを説明し、何とかこの公演だけはピンチチャンスに芸をさせることを承諾させます。
いざその二人の出番になり、刑事達は客席から見張ることに。
ですが何やら支配人が夏目に目配せしていたのでした。

 やがてモニターからはピンチチャンスの漫才が聞こえてきます。軽快なテンポで進むその掛け合いの途中、客席から悲鳴が聞こえてきました。
どうやら夏目が警察に捕まらないように秋田を逃がしたようです。
 そしてそんな騒ぎの中、カレンは倒れ込んで意識を失いました。
周囲が慌てて襲名披露を中止しようとする中、それを止めたのは他ならぬロマン。
チー子を連れ、涙を振り切って新生ロマンカレンの芸を披露しに、大歓声の舞台へと上るのでした。
残された楽屋。御所河原が意識のないカレンを支えながら、『……聞こえる?カレンさん…』と話しかけていました。



 深夜のカメヤ演芸場楽屋。
そっと忍び込んだ二つの影は秋田と順子でした。そこへ夏目がカレンの病院から帰ってきます。秋田をかくまった罪で留置場にいる支配人以外は全員、そちらに行っていたようでした。
そしてこれから式の準備があるからと、夏目は鍵の戸締まりを秋田に託して出ていきます。
 順子が薄汚れた楽屋を見回し、どんな人達がここにいたのかと問い掛けました。
秋田はテーブルに座り、ぽつりぽつりと語ります。
曜日を間違えたフリして講座に上がろうとする落語家。ちょくちょく油を売りに来る中華屋のおばちゃん。何も知らない支配人。怖い事務のお姉ちゃん。調子の良い進行係。仲の悪いトリオ漫才師。喧嘩ばっかりしている夫婦漫才の夫婦。
自分の師匠……。
『客の拍手が、笑いの渦が…まだ聞こえる。まだ、鳴りやまぬ……だ。』
師匠の口癖を口にし、懸命に涙を拭いながらも秋田は新たな決意を胸に、短くも楽しかったこのカメヤ演芸場をを立ち去るのでした……。







今回のイナダ組。個人的には凄く好きでした。殺生沙汰がなかったのと、なんともほのぼのとした昭和の終わり頃の人間模様。古くさくて、少し切なくて、どこか懐かしい雰囲気が漂う時代背景と、その頃既に下火になりつつあった学生運動。
そんなものがうまく絡んでいたような気がします。
一人一人の人間味溢れるキャラクターが生き生きとしていて。
さいごにホロリと泣かされて。
いやー。。。好きでした。
上のあらすじでは割愛しまくってますが、ほぼ全てのシーンにおいて、笑いが満載でした。
元気だった頃のカレンさんの味のある台詞と動き。そしてロマンさんの愛すべきダメダメキャラ。とぼけた味わいの金朝師匠。天然っぽい支配人。つねに顔ネタで弄られる秋田。。。等々。
ロマン師匠が初登場でロッカーに隠れるシーンでは、カレンさんが楽屋で大暴れしているところでロッカーの扉が音もなく開いてしまい、背を向けて隠れているロマンが丸見えになっちゃったり
泥酔したロマンが
『フ〜ラフラだぁ〜♪ 立てば芍 薬、座れば牡丹、歩く姿は……やっぱフラフラだぁ〜ぃ♪って感じで千鳥足で歩いていたり。
また秋田との出会いのシーンでの琢ちゃんと洋ちゃんの絡みが楽しい。息がピッタリで、面白すぎです。
琢ちゃんと言えばコスプレシーンなどもありました。
漫才を始めてすぐのところでまだ全体的に雰囲気が堅いと指摘を受け、何故かロマン師匠のところで使わなくなった舞台衣装を着て恥じらいを無くす訓練をすることになってしまい、与えられたのが
真っ白のナース服☆ しかも何故か、『わたしも一緒に着ましょう!』と、大乗り気だったのが。。。別に恥じらいをなくさなくても全然構わない筈の支配人。つまりは、モリ。
で、勇んでもりはセーラー服に三つ編みのカツラで大変嬉しげに登場してきてしまったりするワケなのですが。。。
不審人物扱いされて公安の刑事に連行されていってしまいます(笑)
連行される時の
『なんーでだーーーーーーーあッ!?』の絶叫は、かなり絶品でした(笑) シゲが一番ツボにはまったシーンだそうな。
その後誰もいなくなった楽屋に、そうとも知らずに颯爽と登場した看護婦姿の琢ちゃんが、面白いやら可愛いやら。
なんせ筋肉質の
マッスルタクマさんですので。ピッチピチなんですね、どこもかしこも(笑)
で、照れてモジモジするのがまた何とも可愛いんですね〜。
J扮する金朝師匠、何故かこのお方は常にスリッパで叩かれたりどつかれたり。その度のリアクションが何とも最高でした。
クニの江田くんとチー子の達子がロマン師匠に挨拶をする場面では、そのあまりのチビチビな様子がツボでしたね。ロマン師匠に『こえぇぇぇな、お前等! 小人か!?』なんて言われても一向に気にしないで二人して飛び跳ねているは不思議〜な感じで、爆笑してしまいました。
また照明のヒデさん。ほんの少ししか出番はなかったのですが、いいインパクトでした!
深夜ロマン師匠と秋田が石崎と話をしていた時に、突然備え付けのロッカーから
『五月蝿くて眠れネェよ!!』と、飛び出してきて、ギターを弾こうとしていた石崎に『ノリノリのロックをやってくれ……俺ぁロッカーだからな!と、言っただけでまた戻るロッカー居住者でした(笑)


とまあ、こんな感じのレポになりました。
見た方なら何となく雰囲気は伝わるかとは思うのですが、見てなくてなんじゃコリャ?な方は、本当にごめんなさい(汗)
少しでも楽しんで頂ければ、幸いです。。。








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